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材料開発における「データ前処理」の基本:目的変数・説明変数の見直し方

April 10, 2026
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予測精度が上がらない原因の多くはアルゴリズムではなく「データの前処理」にあります。精度改善の起点は、目的変数(予測したい値)の分布の歪みと、説明変数(原因側のデータ)の表現の選び方を見直すことです。「どのモデルを使うか」を変える前に「どのデータをどう整えるか」を問い直すことが、MIを実務で効かせる鍵であり、本記事ではその入口となる考え方を整理します。

【3行要約】

  • 予測精度が上がらない原因のほとんどは、アルゴリズムではなく「データの前処理」にあります。
  • 目的変数(予測したい値)の分布の歪みと、説明変数(原因側のデータ)の表現の選び方を見直すことが、精度改善の起点です。
  • 「どのモデルを使うか」の前に「どのデータをどう整えるか」を問い直すことが、MIを実践で機能させる鍵です。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を導入した後、こんな声をよく聞きます。
「モデルを作ってみたが、思ったより精度が出ない」
「ランダムフォレストをXGBoostに変えたが、あまり改善しなかった」
精度が伸び悩んだとき、多くの場合まずアルゴリズムが疑われます。しかし現場の経験から言えば、問題の根本はアルゴリズムではなく、データの前処理にあることの方がはるかに多いのです。
今回は「前処理」の入口として、最も影響が大きい2つのテーマ——目的変数の扱い方説明変数の選び方——の考え方を整理します。

1. 目的変数の前処理:分布の「歪み」に気づくことから始まる

まず確認したいのが、目的変数(予測したい特性値)のヒストグラムです。材料開発のデータは、低い値に集中し右裾が長い、歪んだ分布をしていることが多くあります。
この歪みは偶然ではなく、構造的な理由があります。一つは、疲労寿命や絶縁破壊強度など多くの材料特性が指数関数的に変化するという物理的な背景です。もう一つは、材料開発が「高い特性値を目指した試行錯誤」の積み重ねであるため、失敗・平凡なデータが大多数を占め成功が稀になるというサンプリングのバイアスです。
この歪みを放置したままモデルを作ると、低い値に過剰適合し、本当に重要な「高性能領域」の予測精度が犠牲になります。
対処の方向性としては、分布を補正する変換処理(代表的なものは対数変換)が有効です。ただし、「どの変換をどう適用するか」「変換前後でモデルをどう比較するか」は、データの性質によって判断が変わります。
また、精度評価に使う指標の選び方も重要です。よく使われる MAPE(平均絶対パーセント誤差)は直感的で便利ですが、実測値が 0 や 0 に近い場合には破綻します。指標を一つに絞らず、複数の視点で評価する習慣が、誤った判断を防ぎます。

2. 説明変数の前処理:「物理的な視点」で表現を問い直す

精度を左右するのは目的変数だけではありません。原因側のデータ(説明変数)の表現の仕方もまた、大きな影響を持ちます。
ここで使える考え方が、材料科学における「示量性特性」と「示強性特性」という分類です。
分類
定義
具体例
示量性特性
スケール(量)に比例する特性。モノが2倍になれば値も2倍
総収量、製造コスト
示強性特性
スケールに依存しない特性。半分に分けても値は変わらない
収率、硬度、融点
重要なのは概念の暗記ではなく、「自分が使おうとしている説明変数の単位は、目的変数の性質に合っているか?」という問いを立てる習慣です。
たとえば、ラボとパイロットで同じ組成のはずなのに収率が変わってしまう——こうした現象は、説明変数の「表現」がスケールの変化を捉えられていないことで起きます。組成(wt%)で見るか、絶対量(g)で見るかによって、モデルが学習できる関係性はまったく変わります。
どちらが正しいかはデータを見てみないとわかりません。しかしこの「問い」を持って可視化してみることが、データに眠っている物理的な構造を発見するきっかけになります。これは、ドメイン知識を持つ研究者が最もバリューを発揮できる部分です。

3. まとめ:前処理は「問いを立てる」プロセスである

本記事の内容を振り返ります。
  • 目的変数では、分布の歪みに気づき、適切に補正し、多角的な指標で評価することが精度向上の土台になります。
  • 説明変数では、示量性・示強性という物理的視点でデータの表現を問い直すことで、モデルの学習を本質的に改善できます。
共通して言えるのは、前処理とは単なる「データの加工」ではなく、「このデータは、予測したい現象を正しく表現できているか」という問いを繰り返すプロセスだということです。

さらに深く知りたい方へ

本記事では「前処理における考え方」を概念中心でお伝えしました。
具体的な判断フロー・シナリオ解説、および Polymerize Labs での実際の操作方法については、2026年4月9日開催のウェビナー「データ前処理の考え方と実践」で詳しく取り上げています。
ウェビナーの内容・詳細に関してご興味がございましたら、下記よりお気軽にお問い合わせください。
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Masahiro Fujita

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